そこにいたのは、今し方夢で見た人物。

 幼い頃にたった一度だけ会った、その人だったのだ。

 思わずまじまじと見つめてしまっていた彼女に対し、彼は鋭く睨み付けるような視線を返す。その怖いくらいの眼差しすら美しいと感じてしまう自分に、どこか自虐的な精神を持っているのではないかと不安になってしまうほど。

「気分はどうだ?」

 容姿に負けず劣らず、低く綺麗な声が静まり返った室内に響き渡る。

「今のところは何も⋯⋯大丈夫⋯⋯⋯⋯です」

「そうか」

 呟いて彼は二人を交互に見遣り⋯⋯告げた。

「明日にもここを立ち去れ」と。

 物音静かに現れた彼の持つ独特の雰囲気に、イザベラはある確信のもと、嫌な予感がしてならなかった。

「ここはお前たち人間(・・)の来るべき場所ではない」

「人間」と一括りにされてしまったことに、イザベラは多少の寂しさを感じつつ、その感情は、彼女の幼い頃の記憶を揺さぶり呼び起こす。

 彼が何者なのか分かったのだ。