「傷、痛む?」

 そっと尋ねてくる彼に、彼女はゆっくりと首を左右に振る。安堵したようにふわりとした笑みを湛え、「よかった」と漏らすその言葉は本心のようだった。

「酷い嵐だった。僕がここに来た時にはもう、君は『彼』に手当てを受けてた」

「『彼』?」そうぼんやり尋ねると、青年はそうだと頷く。そして、この城の主だと付け加えた。

「確かに私⋯⋯怪我をしてたの?」

 そう確認すれば、重症だったと答える彼にさらに驚く。

「ダメかもしれないって、一瞬思ったよ」

「でも生きてる⋯⋯」

 どういう状況だったのか、彼の知る範囲で懸命に説明をしてくれるが、彼女にはどうも実感が湧かなかった。それが事実だと言うならば、自分はかなりの深手を負っていたことになる。しかし彼女自身には多少の気だるさは残るものの、今のところその体のどこにも痛みはなかったのだ。