雲が通りすぎ、再び美しい光りが顔を出す。見つめる視線の先には満月を背負う、それはそれは美しいその姿。

 そこには、哀れさなど微塵もなかった。

 とても凛々しく誇り高い、強い意思を持った眼差しが少女を真っ直ぐに見つめている。

「もうお帰り、小さな姫君。夜も深い⋯⋯こんな時間にこんなところにいてはいけない。早く森を出なさい」

 彼を纏う特別な何か。

 月の輪郭をなぞる闇のよう、その姿を包む不思議な魅力が少女を惹き付けて止まなかった。

 優しい夜風がキラキラと輝く銀髪を揺らし、この頬をそっと掠めていく。

「出口まで送ろう」

 そう言うと彼は立ち上がり、少女の背中をそっと前へと押した。

 絶え間ない時の流れの中で過ごしたほんの僅かな時間。

 けれどそれは、永遠にも等しいほどの儚い一瞬だった。