「私は⋯⋯『闇夜の住人』。君は母上によく似ている、イザベラ。彼女のこと⋯⋯誠に残念だ。お悔やみ申し上げる」

「母さまを知っているの?」

 彼は何も答えなかった。ただ少女の目を真っ直ぐに見つめるだけ。

 確かにその日は、彼女の母の月命日だったのだ。

 その一月前、病死によりこの世を去った大切な人。美しいその亡骸を思い出し、途端に込み上げてくる悲しみに、少女は歯を食いしばり目を伏せた。

 僅か一月ばかりではとても忘れられない、「母」という大きな存在。涙する少女に、彼は優しく語りかけた。

「忘れないで、私はいつでもここにいる」────と。

 独りではないと、頬を伝う涙を綺麗なその手が拭っていた。

 穢れ、呪われた血に染まる存在────そう教えられてきた。けれど少女の母、アンネリーゼはそれを邪悪なものとはただの一言も言わなかったのだ。きっと誰も知り得ない何かを、彼女だけは知っていたのかもしれない。

 風に流れる雲が月を覆い、二人を闇に隠す。

 僅かな光りさえも伸びてこない地上で、この森の存在ごと闇夜に同化してしまっていた。

 夜は嫌いだった。

 けれど彼と一緒なら何も怖いものなどない、少女はそう思えたのだ。