「あなたが、哀れで美しい薔薇の花?」

 ふと思い出した悲しいおとぎ話。少女は思わずそう口にしていた。

 それはとても切ない昔語り。

 身分の違う男女の引き裂かれた愛の物語は、おとぎ話と呼ぶにはあまりにも残酷で、その結末は悲しすぎる最期を紡いでいた。

 女は男を守るためその命を投げ出し、男は女を失った悲しみのあまり自ら望んで『悪魔』に魂を売る。闇夜の住人となった彼はその森で訪れた人間を喰らい、永遠の命を手に入れた────それが、広く語り継がれている『闇の森』の由来だった。

「皆が言ってる。この森には『悪魔』が棲んでるって」

「その話なら私も知っている」

 言うとその青年らしき者は、少女と目線を合わせるよう方膝をつき、先程とは打って変わったとても優しい声色で「君はどう思う?」と続けた。