「確かに⋯⋯クラウスなんだな? クラウス・リーフェンシュタールなんだな!?」

 彼の両肩を掴み、そう何度も確かめるように尋ねるヴィクトールに、クラウス自身は「それがどうした?」とでも言いたげに頷いた。

「『薔薇の誓い』⋯⋯この言葉に聞き覚えはないか?」

「『薔薇の』⋯⋯⋯⋯『誓いの書』────?」

 そうだと言うヴィクトールに、クラウスは何かを思い出していた。

「姓は? お前の氏は何と言う!?」

 そう言い今度は反対に詰め寄られる側になったヴィクトール。意外な展開にしどろもどろになりながらも、何とか答えた。

「ヴェ⋯⋯ヴェルナー。ヴィクトール・ヴェルナー」

「ヴェルナー⋯⋯⋯⋯」

 その名に、クラウスの表情は固まった。

 それは、運命の歯車が回り出す音。

 止まっていた秒針が「終わり」の「始まり」を告げていた。