城の扉の前までやって来た青年は、今一度、大声を張り上げる────「助けてくれ」と。

 やはり反応はなかった。ならば最後の手段だと扉に手をかけようとしたその時だった────大きな軋みを響かせて、今しがた触れようとした扉がひとりでに奥へと動いたのだ。

 青年ではない。何者かが、内側から扉を引き開けた。

 室内で微かに揺れる灯りに、思わず眉を寄せる。

「何用か⋯⋯」

 姿なき者の声が微かに反響している。

 それはとても低く、それでいて美しい余韻を残す空気の波だった。

 けれどその声は無感情で、冬の寒さとはまた違う嫌な冷たさがあった。ただ不快感だけを露にした鋭い声色に一瞬怯みそうになったが、青年は姿勢を正し続けた。

「助けて欲しいんだ。この猛吹雪の中、もう一時間は歩き続けてる。少しでいいから、暖をとらせて欲しい」

 頼むと言う青年の言葉を、扉の向こう側にいる人物は無情にも突き返した。

「他を当たれ。ここはお前のようなものが来る場所ではない」────と。

 声の主は姿を見せないまま。

 すぐそこにいるのは小さな明かりと声でわかるが、正体は見えないのだ。その距離感が不気味で不安は募るばかりだが、そうも言ってられないのが現実。彼とて、その命がかかっていた。