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「ウソだろ? マジで誰もいねぇのか!?」

 猛吹雪の中、歩き続けること一時間。肌を刺すように冷たい嵐は青年の体力を徐々に奪い、その行く手を阻む。その上視界さえも悪くなり、明らかに歩む速度が遅くなっていた。だからといって立ち止まってなどいられない。足を止めてしまえば即凍死だと、折れそうな心を奮い立たせ道なき道を歩き続けて来たのだ。

 ここまで来ればもう、体力云々の問題ではない。精神力だけで突き進むその歩みが保っていたのは、細い光の糸。それさえも失いかけていたその時、彼はようやく見つけることが出来たのだ。

 森の奥深くにひっそりと佇む、その美しき白亜の古城を。

 しかしながら、いくら呼び掛けても城内からは何の反応もなく、返ってくるのは闇にこだまする自身の叫び声だけ。その間にも残された僅かな体力は、どんどんと消耗していく。

 青年は腹をくくった。

 重い城門を何とか押し開け、軋みを上げるその隙間から身体を滑り込ませる。開き直った彼にもう怖いものなどない。最悪、忍び込む覚悟で、堂々と敷地内に足を踏み入れると、積もりに積もった雪の上に足跡を残して行く。それほどまでに切羽詰まっていた。