邪悪なる種族として忌み嫌われ、その存在すら否定され続けてきた彼は、その長い年月の中で自らの内に流れる血を呪い、その存在に耐え苦しんだ。自ら死を望みながらも、絶望に浸る心の片隅に残された僅かながらの一族の誇りが、彼をこの世に留めおいたのだ。

 あれから四百年────。

 不老不死の肉体を抱え、闇を生きる彼はいつしか「孤独」の持つその意味さえも忘れてしまっていた。人間に対する恨みや憎悪、復讐心など、とうの昔に尽きたのだと。

 今はもう、誰とも、何事とも関わり合いたくない、と⋯⋯そう。

 忘れていたはずの────いや、忘れようとしていたはずの記憶が、鮮明な映像となりその脳裏に浮かぶ。それらを振り払うようにゆっくりと身体を起こしベッドから立ち上がると、彼はそのままの姿でテラスへと歩を進めた。

 扉を開けると外は相変わらずの猛吹雪。吹きつける風は肌を刺すように冷たかったが、彼は顔色一つ変えることなく、その場にただ立ち尽くしていた。

 そうして、どれほどの時間が過ぎただろうか? 吹雪は一際激しさを増し、闇夜の静寂をより掻き乱していた。