彼よりは幾分か年上に見えるその人は、とても優しい笑みを浮かべ一度だけ深く頷く。その柔和な表情に安堵したのも束の間、その身体は血の海に沈むよう消えて逝った。

 鋭い刃がその胸を突き抜けたのだ。

「父上────!!」

 彼は力の限りそう叫んだが、その声は誰にも聞こえてはいなかった────と、反射的に体を起こす。

「────っ、夢か⋯⋯」

 目覚めたその視界に入ってきたのは、真っ暗な闇に浮かび上がる豪華な装飾が目立つ無機質な天の壁。

 夢は目覚めればそこで終わりだが、それが現実を模したものであったならばその先があって然るべき。

 あの後、父の命令に背き耐えきれなくなった彼が加勢すべく飛び出して行ったが、重臣たちにそれを阻まれ何も成すことは出来なかった。それどころか、彼だけがその場から引き剥がされ、無理やり隠し通路へ押し込められると、誰も出入り出来ぬようその道は爆風により塞がれた。

 崩れゆく瓦礫の中、塞がれた出口を見つめ絶たれた道に失われた希望。自分の無力さに、彼はただただ打ちのめされていた。