寒さと痛みで朦朧とする意識の中、次第に大きくなる闇の存在。来たるべき『死』を覚悟したその時、その耳に微かな物音が聞こえた。

 凍りかけた大地を踏みしめるような足音に、先程の兵士が自分の生死を確認するために舞い戻って来たのではないかと彼女は息を殺す。

 しかし足音は一人分。彼女は震える体を一生懸命硬直させた。

 段々と確実にこちらに向かって近づいてくる足音は、凍てつく大地に横たわるその側まで歩み寄り止まる。

 霞がかった視界に映ったもの────それは、雪原となりつつあるこの風景にも同化しうるほどの純白だった。

 確実に兵士の足元ではない。

 雪のように真っ白なローブだろうか? それがただ静かにそこで揺れていた。

 足元から辿りその顔を確認しようにも、意識は絶命間近。僅かに確認できたのは、ぼんやりとした顔の輪郭だけだった。

 それでも強く感じるのは、どこか異質で特別な雰囲気を纏っているその存在感。

 その人物はゆっくりとその場にしゃがみ、方膝をつくと彼女の耳元でそっと囁く。

「まだ、生きていたいと望むのなら助けてやる」────と。

 その声は低く、そしてとても美しかった。

 彼女は残された体力の目一杯で頷く。すると、途端に体が浮き上がり、視界が変わったのだ。抱き抱えられているのだと気づくまでに、そう時間はかからなかった。

 助かるのだろうか?

 僅かな希望を胸に、彼女はそのまま意識を手放した。