20分休みになったので、ひなたは奏に資料室を教えに行った。

 資料室に鍵はなく、扉は半開きで、中にある窓のカーテンは閉まっている。

 資料室には誰も居なかった。


「西井さん、屋上の合鍵、どこで見つけたの?」


 薄暗い戸口に凭れながら、奏が聞いた。


「ああ、壊れた鍵を直しに来た時、余ってたんだ。」


 その時は運に感謝した。
 つまらない暇つぶしよりその日向ぼっこの方がよほど有益だったから。



「鍵屋さん全然気づかなかったんだよね」

「ふーん。」



 奏が腑に落ちない顔で頷いた。



「そんな事していいの?」

「いや、良くはない」

「早く返しなよ。」

「嫌だ」

「見つかったら怒られるよ。ほんとに。」



 奏は天井を見上げた。


「こうやってやってる今も、屋上はいい天気なんだろうな、とか思うよ。」


 ひなたが言った。



「考えない方が良いよ。っていうか忘れて捨てた方が良いよ。」

「絶対嫌、そんなの。中学生の間、あの鍵宝物にするって決めてるの。」

「学校のなのに。他の宝物を見つけなよ。」

「無理。嫌なことがあっても屋上に行けば吹き飛ぶし。日向ぼっこで忘れられるし。私のオアシスなんだ。」

「西井さん、そうやって言って結局返さないつもりでしょ。」



 奏は資料室の棚に置いてあった冊子を手に取った。


「僕は別に構わないけど。屋上の鍵がいくつあったって。誰かさんが屋上占領してたって。」


 奏は冊子をパラパラと捲った。


「校則違反。西井さんのワル。変なひと。」


 ひなたは答えずに、背伸びをして資料室の窓を開けようとしていた。