「西井さん」


 教室。

 整った顔が目に飛びこんできたと思ったら口を開いた。



「奏くん。どうしたの?」

「昨日の宿題の資料って、図書室のどこにあるの?。聞きたかったんだけど。」

「あ、あれはね……資料室にまとめて置いてあるんだ。来たばっかりだと分かんないかも。」

「そっか、分かった。後で教えて。」



 奏はそう言うと廊下の方へ消えた。


「ひなた凄い、もう山居くんと馴染んでる」


 カバンを整理していると、後ろから来た冴がひなたの背中を叩いて言った。



「馴染むっていうか……」

「良いなあ、奏くん、ひなたの気さくさに惹かれたのかなあ。」

「さあ……」

「転校生だもん。色々不安だよね。目立つしさ。」



 確かに転校生は不安ではある。

 何一つ場所を知らないのに、奏は人に聞きながら平気な顔で移動教室の授業に出ていた。


「奏くんってもの静かだし感じ良いから、きっと前の学校でも人気だったんだろうね。」


 冴が言った。


「きっと前の学校でも王子様って言われてたんだろうなあ。良いなあ。」


 ひなたは教科書を整理しながら、ひとりごちた冴に心から同意した。