ホームルームが終わって、ひなたがカバーを掛けた漫画を読んでいると、転校生の奏がひなたの方に歩いてやってきた。


「西井さん」


 奏は名札を見ながら言った。



「昨日はどうして逃げたの?。追いかけようかと思ったよ。せっかく人が居たと思ったのに。」

「奏くん、ひなた。2人って会った事があるの?」



 後ろから来た冴が混ぜっ返したので、ひなたは慌てて奏にサインを送った。



「珍しいね。学校来るまでに会うなんて。どこで会ったの?」

「会ってない。」



 ひなたが言った。



「嘘、さっき何で逃げたのって聞いてたよ」

「えーと、あれはね……」



 と、言葉を探しているひなたの背中から、また別の友達が現れた。



「冴!ちょっといい?」

「何?」

「昨日の委員会の連絡でよく分からない所があるんだけど……」

「分かった。ひなた、ちょっと行ってくる」

「行ってらっしゃい」



 ひなたは曖昧な顔で冴を送り出した。
 それから奏を睨むと、小声で言った。



「ちょっと、奏くん、屋上の事言わないで。」

「え、どうして?」

「屋上って立入禁止なの。私だけなんだ、自由に入れるの。お願い、秘密にして。」

「ええっ」



 びっくりした顔の奏に、ひなたは拝む時のポーズをした。



「お願いお願い。何か奢るから。」

「ごめん奏くんお待たせー」



 戻ってきた冴に、奏は腑に落ちない顔でひなたに目を向けたまま話題を変えた。