翌朝ひなたが登校すると、数人の女子が教室で固まってきゃあきゃあ騒いでいた。
「どうしたの?」
ひなたはカバンを置きながら、ロッカーの前に居た友達の細木冴に尋ねた。
「ああ、聞いたら、うちのクラスに転校生が来るらしいんだって」
日直らしい冴は、片手に持った日誌をめくりながら答えた。
「なんか凄い格好いい子だって噂なんだ。髪が金髪みたいな茶髪なんだって。」
「へえ」
「もう登校してるって話だよ。ひなた来る時見かけなかった?」
「見なかったよ。」
ひなたが聞いた。
「転校生ってどこに居るもの?」
「職員室とかでしょ。前にベンチあるから、転校生は大抵最初はそこに座って待ってるよ」
「ふーん」
「あ、そうだ、ひなた、この間借りた漫画、持ってきた。」
冴が言った。
「いつでも良かったのに。」
「早い方が良いでしょ。面白かった。あれライバル勝つんだね。意外。」
ロッカーの影で鞄を開けた冴から漫画を受け取ると、ひなたは漫画を閉まった。
やがてチャイムが鳴ってホームルームの時間になった。
ドアを開けて担任の先生が入って来て、教室は静かになる。
「えー今日はお知らせがあります。」
出席票を手にした先生のその言葉に、数名の生徒が頷きあった。
「もう皆さん知っている様ですが、今日からこのクラスに新しく仲間が増えることになりました。山居くんです。どうぞ。」
ガラガラと戸を開けて入ってきたのは、果たして昨日ひなたに屋上で声をかけてきた、あの男の子だった。
「はじめまして。山居奏です。……から来ました。」
ひなたは目をぱちくりさせて奏を見た。
奏は窓際の席から自分を見ているひなたに気づいたらしい。
ちょっと驚いた顔をすると、微かに首を傾げた。
「趣味は読書と映画鑑賞。特技は走ることです。」
「山居くんは、あの有名な私立中学の、なんと成績トップです。」
先生の言葉に、お〜という感嘆の声があがる。
「女子にファンクラブ出来ちゃうんじゃないか?。このルックスは。先生は心配です。」
整った顔立ちの奏を先生がからかうと、生徒達からは笑い声とため息が漏れた。
「みんなも見習って頑張るように。喧嘩しないように。仲良くするように。以上。」
顔を上げると、奏はまだこちらを見ている。
ひなたは困ったなと思いながら、机の上を見ていた。