ひなたは中学生。
成績も普通、容姿も普通、性格も普通。
漫画好きで、友達は多い方でも少ない方でもなく、学校では目立たない。
そんなひなたには秘密がある。
それは中学校の屋上の合鍵を持っている事。
ひょんなことから偶然入手した合鍵をひなたは手放さなかったのだ。
ひなたはよく一人で屋上に忍び込んでは、青空を独り占めしていた。
ある日の事。
学校から帰ったひなたは、カバンを置いて、その足でまた中学校へ戻った。
その日は快晴で、言うなれば屋上日和。
ひなたは屋上で寝転んでうんと日を浴びて過ごすつもりだった。
日陰になった廊下を通り、階段を登って、人がいないのを確認してから、ひなたはドアの鍵穴に鍵を差し込んだ。
カチャリ、と音がしてドアが開くと、目の前に広がる青空。
ひなたは一人笑みを浮かべながら呟いた。
「やっぱこれでしょ。」
ひなたは、屋上の縁まで行って、青空に向かって手を伸ばした。
と、後ろから声がした。
「何してるの?」
驚いて振り向くと、誰も居ないはずの屋上の塀の影に、色素の淡いきれいな顔をした男の子が立っていた。
「ここ立入禁止だよ。って、僕も人のこと言えないけど。何してるの?」
ひなたの方を見てそう喋った男の子に、ひなたは狼狽えて塀から離れた。
見た所この学校の生徒ではないらしく、男の子は私立の中学の制服を着ていた。
なぜ違う学校の生徒が居るのか、混乱するひなたの頭では分からなかった。
「誰か人が居ると思わなかった。部活時間みたいだったし。君、ここの生徒でしょう。」
男の子は空を見上げる代わりに、ひなたの方へ向かって歩いてきた。
「っ」
焦ったひなたは小さく叫ぶと、猛ダッシュしてドアへ駆け寄った。バタン、と扉を閉めると、そのまま一目散に階段を降りて逃げ帰った。