見慣れた道を歩き続けて30分。ようやく学校へとつく。
 
普段より遅く学校に着いてしまったこともあり、人がごった返している。

やけに視線を感じる。私の顔に何かついているのか不安になる。居心地が悪い。今日は薄くメイクもしたし、髪もアイロンを通してモデル並みに可愛くなったと思っているし、爪も整えたし、大好きなピアスもみんなに悪く見られないように髪で隠した。

一度不安になってしまったら変わらない。『逃げよう、家に帰ってドラマの続きを見て心を安らげよう。』そんな考えが頭をよぎってしまった。私は臆病で卑怯で自己中だから、〝四ツ木 天花″なんかと同じクラスなのを嫌に感じる人がいると思う。だから今まで通り学校に行かないほうがいい。私は踵を返した。自分じゃ止められない不思議な涙が出てくる。母さんに呆れられるだろうか。また逃げたんだと。せっかくメイクをしたのに台無しだ。2年生を楽しみにして今まで生きてきたのに。私はまた…。

 「それ海原高校の制服だよね?1年?道迷った?俺も今行くとこだから一緒に行く?え、泣かないで!ごめん質問攻めだったから怖かったよね、せっかくの可愛い顔が…まぁ、泣いても可愛いけど…」

 それは、いきなりのことだった。今まで学校から何回も泣きながら帰ったことはあるが、声をかけて心配をしてくれる人はいなかった。私は誰かの優しさに触れたからか、自然と涙が溢れてくる。温かい涙だ。

「これ、使って!安物のハンカチだから、あげる!」

彼がそう言って渡してくれたハンカチは、真っ白で綺麗に畳まれていて明らかに道端で会った知らない人にあげていいものではないだろう。

「ありがとう…」

「ん、海原高校の人だよね?なんで泣いてるの?」

「そう、家に忘れ物したの思い出してだるすぎて泣いてた」

咄嗟に出てしまった嘘は、小学生でもつけるような幼稚な嘘だ。

「そっか笑!じゃ、一緒に学校行こ!」

この人となら、前に進めると思った。私は彼と一緒に前を向いて学校へと歩き出す。