「その奇妙な噂とやらがどのようなものかは存じ上げませんが、憶測だけで余所者を脅かすのはほどほどにした方がいいかと思います」
こういう小さな村だし、いろいろややこしいものがあるのは想像に難くない。
それにわざわざ口を挟む気など毛頭ないし、挟んで余計なごたごたに発展したらわたしだけで丸く収めるのは些か無理があるだろう。
なら、ここは穏便に済ませるに限る。
「お話しがこれだけでしたら、わたしは失礼します」
ぺこりと会釈をして、今度こそ背を向けて歩き出そうとしたのに。
「……これは失礼しました。なにぶん、最近あの祠が若者の間で心霊スポットだと騒ぎ立てられておるようで、よく壊されてしまってなあ。お嬢さんもその類の人かと勘違いしてしまった。誤解したことは謝りましょう」
おじさんが、わたしの背後で頭を下げた気配がした。
……けれど、まだ何かおかしい気がする。
……いや、わざわざこの村を、あの祠のそばを指定してきたあの人の意図も。