お祭りを楽しんだ私達は、手荷物を取りに行くため一旦会社に向かい歩き始めていた。
 蘭に友達が別れを告げると、彼女たちを観て茜のことが気になっていた。

 神社で会えなかったことに残念だと思うと、後ろめたい気持ちが交さなり合う。
 
 やはり、何かしらの用事が有ったのだろうか? 
 
 行きたくても行けない誘いの言葉を掛けたことに、気持ちを落ち込ませ歩いていた。
 帰宅する人々の群れの中、私達は身動きが出来ない状態のまま流れるように歩いていた。

 守君は私の背後に近づき、背中に手を当て歩いている。

「ちょっと、押さないでよ。あんた私を使って人を防いでいるでしょ」

「そんなことしていませんよ。でも、道を変えればよかったですね」

「あんた男なんだから、先生を守りなさいよ」

 駅近くの遮断機の警報が聞こえると、注意を呼び掛ける警察の声が聞こえる。
 慌てだす人々の声がより一層聞こえると、私はなにげなく反対側に有る駅に、目を移していた。

 駅に群がるように集まる人ごみの中、そこを避けるように少し離れた場所に二人の少女の姿が見えた。
 私はその少女の一人が、茜で有ることを確信すると、声を張り上げていた。

「あっ、茜だ」

 手を大きく振り声を出したが、お祭り帰りの大勢の人で目立つことも声が届くこともなかった。
 間隔を開け鈍く光る街灯と、月明かりのせいか白い浴衣姿の茜を輝かせている。

「茜、待っていて、すぐ行くね」

 急に張り上げた声に守君達は驚いている。

「どうしたんですか?」

「友達、私の友達が来ているのよ」

 守君達は私の指さす方向を見て探している。

「どんな方ですか、どんな服装ですか」

「女の子、ほら、あそこの街灯の下に居る、白い浴衣の……」

 再びその場所を確認すると、そこに茜の姿はなくなっていた。

「あれ、どこだろう、移動したのかな」

 時間がかかりながらもその場所に着くと、茜は居なくなっている。

「見間違えじゃないですね」

 辺りを見渡したが存在は無く、先ほどまでの輝きも無くなったかのように薄暗い街灯に照らされていた。
 
 一瞬だったが、茜が来ていることを確認していた。
 白い生地に、若草色の柄が染められた浴衣だった。
 
 その姿はまるで月明かりに輝く、美人な花のように映っていた。