やだ蘭ったら、そんなことで喜んでいたなんて、バカなんだから。
 楽しそうな表情が遠目にわかると、本来の作戦を忘れてしまい会話を続けていた。

「さとし君は蘭とお付き合いするようになった時、嬉しかった?」

 彼の照れくさそうにうなずく動作だけが目に入ると、私は安心をしていた。

「私にも特別な人が居るのだけれど、声をかけられたとき嬉しかったわ、でもその人外国に行っちゃうの、ボランティアだって」

「あっ、ボラン……すごい……ですね」

「本当は、側に居てほしいのだけれど、その人の夢なんですって、しょうがないのかな? 一生懸命好かれるように努力して、一生懸命告白してくれたのに、私だって一生懸命嫌われないようにしていたわ、そうゆうのって勝手な事情で忘れちゃうみたいね」

「……」

「でも私も最近そのことに気付けたんだ、情けないよね」

 彼に目線を移すと、沈黙したまま話を聞いてくれている。
 手に持つビールにも口を着けること無く、どのような言葉を返したらいいのか、迷っているようだった。

 時折私達を意識する蘭の表情は、不安そうに映っていた。

「ところで、学校には蘭とさとし君の友達グループの中に、男の子っている?」

 突拍子もない質問に、不思議そうに答えた。

「はい。いますけど、何でですか」

「ほら見て蘭のこと、特別に可愛くない? 彼女これから更に奇麗になるわよ。しっかり側に居て好かれるように努力しないと、あなたの友達や周りの男の子達に、心を奪われちゃうかもしれないわよ」

 さとし君は蘭を見つめ考えていた。

「私の彼にも言いたいのよ、私を置いて旅立つなんて、邪魔者が居なくなってチャンスだと思う人が居たらどうするの、目の届かない場所に行って平気なのって。女はいつも側に居てくれる人の方が……ねえ」

 さとし君は私が言いたいことが理解したようで、目を見開いでいた。

「まあ、私も後悔しないよう頑張ろうと思っているんだけどね、頑張ってもっと彼に好かれてみる、ダメなところも好いてくださいっと言うより、好かれることを頑張っている人の方が……そうねえ、若者風の言葉で言えば、イカシテルっかな?」

 さとし君は小さくうなづくと、その場に立ち上がり、手に持つビールを勢いよく飲み干していた。
 近くのごみ箱に容器を捨て、再び私の前に立ち止まると、恥ずかしそうに聞いてきた。

「俺、あっ僕……顔赤いですか?」

 手で軽く自分の髪形を直すようにする、彼の素直な態度が見えると、私は冗談交じりに答えていた。

「うーん残念だけど、ちょっと赤いかな? でも大丈夫よ、十分男前よ」

 彼は私に軽く頭を下げると、蘭の側に駆け寄っていた。

 あれ、これで良かったのかな? 辞めることを引き留める話も、振り子を使用することも出来なかったけど。

 近寄るさとし君を見て、蘭の笑顔はさらに眩しいものに変わっていく。

 まあ、駄目なら、また改めて話せばいいか。

 楽しそうな二人を観て、何故かその時、安心する私がそこに居た。
 神社から空を見上げると、周りの木々に囲まれた中央には、私達だけの星空が浮かんでいる。

 そこには数多くの小さな星達が、街の光に消されながらも、薄っら輝いていた。

「星が二つ現れると、夜になるんだっけ?……子供の頃、何でそんな覚え方したのかしら?」

 私は星空を見上げ、そんな言葉をつぶやいていた。