ミーコの願い事 始まりの章 「ペンタスとヒトデ」

 お店の方の言葉に、周りの男性達が蘭に気付くと、ヒソヒソと声が聞こえ始めた。

「おい、凄く可愛い子がいるぞ」

「本当だ、いやに目立つし、芸能人みたいだ」

 ふたたび歩き出してからも、駅までの間すれ違うほとんどの男性は蘭を目で追っていた。

「可愛いなー」

 言葉が聞こえると、蘭は恥ずかしそうな表情を浮かべ、それがまた男性の気を引いてしまう。

 へーやっぱり、注目されているんだ。まあ、浴衣の効果もあるのだろうが、あの人も、この子も見ているじゃない。

 あまりにも蘭を意識する人が多いので、私は驚き気になっていた。
 蘭は恥ずかしそうに顔を伏せながらも、この状況を誤魔化すように私に問いかけてきた。

「あのー京子さんが話してた、作戦ってなんですか」

 その質問に答えようとしたが、すれ違う男性の目線が気になっていた。

 なーに私のことは誰も見ていないじゃない。遠慮しているのかしら? それとも完璧すぎて、高値の花だとあきらめているのかしら? 

 美人過ぎる自分を理解しながらも、あまりにも差別化する男性の視線に、目立つ浴衣を選べばよかったと後悔をしていた。

「先生、来年は目立つやつを、貸して下さい。蘭の浴衣より、もっと目立つ浴衣を」

 不貞腐れながらもそう話すと、先生は真顔で答えていた。

「あら、貴方の今着ている浴衣はとっても素敵よ。私の染めたものなんかと比べてはダメ」

 私はなぐさめるような言葉にも不貞腐れていると、先生は少し考え小声で教えてくれた。

「実はその浴衣を染めた方は、この前人間国宝に選ばれたのよ。それを自然に謙虚に着こなすなんて流石だと思うわ。あなたのための作品見たいよ」

 その言葉に、喜んでいいのか迷っていた。ただ特別な浴衣であることを理解すると、まんざらではなくなっていた。 
 
 駅に着くと大勢の人ごみの中、さとし君は既に到着していた。
 細身の体型に小顔の彼は、今流行のアイドルのように髪の毛を伸ばしている。
 手を腰に当て、気取っていたさとし君だったが、蘭の浴衣姿を見るなり、その表情は驚きに変わっていた。

「さとし、お待たせ」

「橘です。はじめましてさとし君」

 さらに先生が挨拶をすると、同行している人物が誰であるかを理解し、彼は言葉が出せずに口を開け頭を下げていた。

「さとし、なに緊張しているの?」

 蘭が笑いながら話すと、彼は弁解するように答えていた。

「だって、ほら、会社の人とは聞いていたけど、まさか社長さんが来るとは思わなかったから」

 そう説明し一拍おくと、声をかけるタイミングを測るように、たどたどしい挨拶をしていた。

「初めまして、あのー、……相沢さんがお世話になり、なっています。鈴野さとしと言います」

 事前に蘭から聞いていたが、彼もこの日のために浴衣を借りたらしい。
 当初は拒否をしていたらしいが、蘭のことを考え服装をあわせて来たのだろう。

 少しサイズが大きくも見えるが、彼なりの礼儀作法が嬉しく感じる。
 緊張のせいだろうか、顔を伏せる彼の姿に、自然に背中を叩いていた。

「よろしくね、私、霞京子」

 挨拶を済ませ、お祭りのある神社に歩き出す。
 守君は何も考えていないのか、高校生である彼に対し、友人のように話をしている。

「さとし君はビール好き? 神社に着いたら出店で飲もうよ」

 心開いた問いかけに、隣で聞いていた蘭が答えた。

「守さん、私達未成年ですよ」

 そんな光景を目の当たりにして、私は今日の目的を忘れてしまうほどだった。
 神社に着くと、蘭の友人と思われる女の子達が小走りに近寄って来た。 

 喜びのあまり、お互いの手を合わせるように叩き会っている。
 今日という日を楽しい時間にするため、来てくれた彼女達は今回の協力者であった。

 さとし君の心を開放的にし、私と会話しやすい雰囲気作りに一役買ってくれたのだが、今はそのことも忘れたかのようにこの時間を楽しんでいるようだ。

 何て素晴らしい子達だ。
 普段見かけない浴衣姿に、お互いをほめたたえている。

「凄いね、この浴衣とっても可愛いね」

 悲鳴のように聞こえる喜びの声も、子供ならではのようだ。

 私は茜と待ちわせ場所に選んだ、境内横のベンチに近づいて行く。

 そこに座り、周りを見渡せることに安心をしていた。
 先生は町内の顔見知り、守君や私も、幼馴染が子供を連れての再開に喜びを感じていた。

 何気なく先生を見ていると、友人と思われる女性と手を合わせ悲鳴のような声を出していた。
 どうやらその喜びの行為は、子供だけの物ではないことを知り驚いていた。

 少し距離置き目に映る景色に、冷静な感情を受け止めることが出来ている。
 優しく光る提灯の下、楽しそうに会話をするのを見ているだけで、心は満たされていた。

 子供の頃は毎年訪れていたのに、いつから参加しなくなったのだろう。
 大人になり地元を離れる者も入れば、地元に居ても出かけるのがおっくうになり、楽しみを自ら遠ざける者もいる。

 私は楽しさしか伝わらないこの場所の雰囲気に、何故か感傷的になっていた。

 
 しばらくすると、私の座るベンチにさとし君が近づいてきた。
 手には出店で購入した、ビールを持っている。

「あの、今日はありがとうございます。僕まで誘ってくれて。どうぞ、あの、蘭に持っていけって言われて」

 まだ慣れないのか、たどたどしい言葉で手に持つビールを差し出した。
 はにかむ顔つきからは、蘭が元気のない理由を、把握していないことが感じ取れる。

「ありがとう」

 受け取りながらも、彼の手にもうひとつのビールを見て、心にもない注意をしていた。

「あっ、未成年も飲んでいるの? ダメじゃない」

 彼は照れるような表情だけで答えると、私の横に腰を下ろした。

「今日は蘭達と出かけることが出来て本当に良かったわ、さとし君もありがとうね、心配して付き添ってくれたのでしょ」

「はい、でも女性だけだと聞いていたのですが、守さんが居てくれたのですね」

「あれ、本当だ、守君を男性としてカウントしていなかったわ」

 話題に上がった守君を目で探すと、彼は手に持つ大きなウインナーからケチャップが垂れることを想定してか、前かがみになりながらほうばっていた。

 私はなにくわぬ表情を浮かべながら、今回の作戦を決行しようと彼を意識していた。

 これは昔、正に聞いた話だが。恋愛とは生物的学根拠で説明すると、残念ながら動物の本能が働いているらしい。
 動物は思春期になると輝く物や目立つ物を行為に求め、人はそれを、恋だと誤解するそうだ。

 確か、マンドリルという名の、猿の前で聞いたと記憶している。
 たまたま蘭の選んだ浴衣は都合が良かったし、私のかんざしもそうだ。
 今夜のさとしくんは、蘭の容姿を見てときめいているに違いない。

 マンドリルのオスなら、真っ先に蘭を選ぶはずだ。
 そして仕上げにもう一つ。

 私の懐には、糸の先に五円玉が付いた振り子を忍ばしている。

 テレビ番組で見た、催眠術を参考に作成したものだ。
 守くんで試そうとしてみたが、生憎時間が取れず今回ぶっつけ本番なのが残念である。

 私は気づかれないよう静かに懐に手を入れ始めると、それと同時にさとし君は、子供らしからぬ真面目な声色で話し始めた。

「浴衣……着るの始めてだと言っていました」

 私は彼の言葉にタイミングを逃すと、懐の振り子をつかむことをちゅうちょした。

「今着ている浴衣も社長さんからいただいたみたいで、今日はそのまま着替えずに帰りお母さんに見せるそうです。楽しそうに話していました」

 さとし君の言葉に、蘭から聞いた生い立ちを思い出してしまう。
 改めて見た彼女の横顔はいつもより幼く、なぜだかその表情が私の胸を締め付けていた。

 やだ蘭ったら、そんなことで喜んでいたなんて、バカなんだから。
 楽しそうな表情が遠目にわかると、本来の作戦を忘れてしまい会話を続けていた。

「さとし君は蘭とお付き合いするようになった時、嬉しかった?」

 彼の照れくさそうにうなずく動作だけが目に入ると、私は安心をしていた。

「私にも特別な人が居るのだけれど、声をかけられたとき嬉しかったわ、でもその人外国に行っちゃうの、ボランティアだって」

「あっ、ボラン……すごい……ですね」

「本当は、側に居てほしいのだけれど、その人の夢なんですって、しょうがないのかな? 一生懸命好かれるように努力して、一生懸命告白してくれたのに、私だって一生懸命嫌われないようにしていたわ、そうゆうのって勝手な事情で忘れちゃうみたいね」

「……」

「でも私も最近そのことに気付けたんだ、情けないよね」

 彼に目線を移すと、沈黙したまま話を聞いてくれている。
 手に持つビールにも口を着けること無く、どのような言葉を返したらいいのか、迷っているようだった。

 時折私達を意識する蘭の表情は、不安そうに映っていた。

「ところで、学校には蘭とさとし君の友達グループの中に、男の子っている?」

 突拍子もない質問に、不思議そうに答えた。

「はい。いますけど、何でですか」

「ほら見て蘭のこと、特別に可愛くない? 彼女これから更に奇麗になるわよ。しっかり側に居て好かれるように努力しないと、あなたの友達や周りの男の子達に、心を奪われちゃうかもしれないわよ」

 さとし君は蘭を見つめ考えていた。

「私の彼にも言いたいのよ、私を置いて旅立つなんて、邪魔者が居なくなってチャンスだと思う人が居たらどうするの、目の届かない場所に行って平気なのって。女はいつも側に居てくれる人の方が……ねえ」

 さとし君は私が言いたいことが理解したようで、目を見開いでいた。

「まあ、私も後悔しないよう頑張ろうと思っているんだけどね、頑張ってもっと彼に好かれてみる、ダメなところも好いてくださいっと言うより、好かれることを頑張っている人の方が……そうねえ、若者風の言葉で言えば、イカシテルっかな?」

 さとし君は小さくうなづくと、その場に立ち上がり、手に持つビールを勢いよく飲み干していた。
 近くのごみ箱に容器を捨て、再び私の前に立ち止まると、恥ずかしそうに聞いてきた。

「俺、あっ僕……顔赤いですか?」

 手で軽く自分の髪形を直すようにする、彼の素直な態度が見えると、私は冗談交じりに答えていた。

「うーん残念だけど、ちょっと赤いかな? でも大丈夫よ、十分男前よ」

 彼は私に軽く頭を下げると、蘭の側に駆け寄っていた。

 あれ、これで良かったのかな? 辞めることを引き留める話も、振り子を使用することも出来なかったけど。

 近寄るさとし君を見て、蘭の笑顔はさらに眩しいものに変わっていく。

 まあ、駄目なら、また改めて話せばいいか。

 楽しそうな二人を観て、何故かその時、安心する私がそこに居た。
 神社から空を見上げると、周りの木々に囲まれた中央には、私達だけの星空が浮かんでいる。

 そこには数多くの小さな星達が、街の光に消されながらも、薄っら輝いていた。

「星が二つ現れると、夜になるんだっけ?……子供の頃、何でそんな覚え方したのかしら?」

 私は星空を見上げ、そんな言葉をつぶやいていた。
 お祭りを楽しんだ私達は、手荷物を取りに行くため一旦会社に向かい歩き始めていた。
 蘭に友達が別れを告げると、彼女たちを観て茜のことが気になっていた。

 神社で会えなかったことに残念だと思うと、後ろめたい気持ちが交さなり合う。
 
 やはり、何かしらの用事が有ったのだろうか? 
 
 行きたくても行けない誘いの言葉を掛けたことに、気持ちを落ち込ませ歩いていた。
 帰宅する人々の群れの中、私達は身動きが出来ない状態のまま流れるように歩いていた。

 守君は私の背後に近づき、背中に手を当て歩いている。

「ちょっと、押さないでよ。あんた私を使って人を防いでいるでしょ」

「そんなことしていませんよ。でも、道を変えればよかったですね」

「あんた男なんだから、先生を守りなさいよ」

 駅近くの遮断機の警報が聞こえると、注意を呼び掛ける警察の声が聞こえる。
 慌てだす人々の声がより一層聞こえると、私はなにげなく反対側に有る駅に、目を移していた。

 駅に群がるように集まる人ごみの中、そこを避けるように少し離れた場所に二人の少女の姿が見えた。
 私はその少女の一人が、茜で有ることを確信すると、声を張り上げていた。

「あっ、茜だ」

 手を大きく振り声を出したが、お祭り帰りの大勢の人で目立つことも声が届くこともなかった。
 間隔を開け鈍く光る街灯と、月明かりのせいか白い浴衣姿の茜を輝かせている。

「茜、待っていて、すぐ行くね」

 急に張り上げた声に守君達は驚いている。

「どうしたんですか?」

「友達、私の友達が来ているのよ」

 守君達は私の指さす方向を見て探している。

「どんな方ですか、どんな服装ですか」

「女の子、ほら、あそこの街灯の下に居る、白い浴衣の……」

 再びその場所を確認すると、そこに茜の姿はなくなっていた。

「あれ、どこだろう、移動したのかな」

 時間がかかりながらもその場所に着くと、茜は居なくなっている。

「見間違えじゃないですね」

 辺りを見渡したが存在は無く、先ほどまでの輝きも無くなったかのように薄暗い街灯に照らされていた。
 
 一瞬だったが、茜が来ていることを確認していた。
 白い生地に、若草色の柄が染められた浴衣だった。
 
 その姿はまるで月明かりに輝く、美人な花のように映っていた。
 消毒液の匂り。
 廊下から聞こえる物音に、まぶたを閉じたまま意識している。

 いまだ馴染めないシーツの感触は、清潔ではあるが少し固くも感じてしまう。
 近付く足音が聞こえると、寝返りを打ち心の準備をしていた。

「おはようございます。月下明里(ツキシタアカリ)さん。体温測りますね」

 私の名前が呼ばれると、ベッド横に置かれた衝立から、看護婦さんが姿を表した。
 体温計が渡され、それを脇に挟むと、目を合わせることなく話し始めていた。

「体調はどうですか? 替わりないですか」

「はい、大丈夫です」

 一方的な問いかけにに返事をしてみても、腕時計で時間を確認しているので、目も合わすことなく会話にはなっていない。

「はい、もういいですよ」

 その呼びかけに、体温計を手渡すと、走り書きで記録をつけていた。

「平熱ですね、朝食が来ますので、準備してください」

 看護婦さんは、カーテンを勢いよく開けると、足早に別の病室に向かって行った。
 
 この病室に寝泊まりをするようになり、一週間近くが経過している。
 ベッドが三つ置いてある病室だが、現在私以外誰も利用していない。
 あんなに体調も良かったのに、こんなに長い検査入院だなんて。

 顔を洗うため、部屋に設置された小さな洗面台に向かう。
 鏡に自分の姿が映ると、そこには目元が腫れボサボサな髪型をした、別人の姿が映し出されていた。

 家に帰りたい。

 いこごちが悪いと感じると、その気持ちは強まってしまう。
 味のない食事を済ませると、唯一許された病院内の中庭に、逃げるように出かけていた。
 
 そこは建物で囲まれ、日があまり当たることのない、小さなものだった。
 喫煙所にもなっていて、解放時間は朝の九時から夜の七時までとなっている。
 医師や患者が集まるため、飲み物の自動販売機も設置してあった。

 距離をとり、反対に位置する室外機と並ぶベンチに腰を下ろした。
 そこは消毒液の匂いのする病院のことを忘れさせ、心を踊らせる場所でもあった。
 周りから見えない足元には、イタズラ心で持ち込んだ、ペンタスが隠し置いてあったからだ。 

 母が、植木は根が張るから縁起が悪いと言っていたが、妹に頼み内緒で置いてある。
 この花の存在は、心の励みになっていた。

 ペンタスに興味を持ったのは、三年前に出会った、おじいさんから聞いた話が切っ掛けだった。

 以前もこの病院にお世話になったことがあったが、退院の際、両親が手続きをするのを待合室で待っている時のことだった。
「ほう、オランダナデシコだね、綺麗に咲いているね」

 同じソファーに腰を下ろした男性が、私の手に持つカーネーションをみて話しかけてきた。
 小柄な体型に白髪で眼鏡をかけ、か細い声が印象的な年齢は七十代ぐらいの、おじいさんだ。

 考えるように沈黙していたが、自分が間違った認識をしているのかと思い、こう聞き返していた。

「この花カーネーションですよね? オランダナデシコっという名前なんですか?」

 おじいさんは、何故か嬉しそうに微笑みこう話した。

「昔は横文字を使えなかったから、オランダナデシコはその花の和名なんだよ」

 私は外国名で流通している花を、わざわざ和名で語る人がいるとは思わなかったので、可笑しさが込み上げていた。

「フフッ、詳しいのですね。お花に携わるご職業か何かですか」

「いやいや、そんな大層なものでは」

 軽く仰いだ手の小指球の部分には、鉛筆などで使われる黒鉛のような汚れが付いている。
 事務作業を、されているのだろうか?
 容姿から勤めを引退し、絵を描くことを趣味にしているとも推測してしまう。

「私はね、咲いているだけで周りの人を幸せにしてしまう、植物の存在が素敵だと感じているんだよ」

 おじいさんの言葉は、疑うこともなく、頭の中で理解した。

「お嬢ちゃんは、お見舞いかな?」

「いえ、今日退院です。このお花はお祝いでもらって」

「それは良かった」

「……オランダナデシコが欲しいと、催促したんですけどね」

 会話を続けながらも、先ほどの言葉。花の存在が心に残っていた。
 
 当たり前のように好きであることを認識していたが、こんなに真面目に向き合ったことのなかったので、花を見つめながらも納得していた。

「本当。今頃気づきました。今私、幸せをもらっています」

 おじいさんは、改めて納得する私を、驚き見つめていた。

「はっはっはっ」

 声に出し笑うと、辺りを軽く見渡し、特別だと言わんばかりに話をしてくれた。

「だけどね、気を付けなきゃいけないよ。中にはそれ以上のお花もあるから」

「それ以上のなんですか?」

「うーんそうだなぁ……今は大人しくしているか」

 勿体ぶるかのようにはなし、こちらの表情を確認しているようだ。
 小声で話すその花の名前が、ペンタスのことだった。

「赤や桃色、紫に咲く子達は良いけど、白い奴、そいつが……曲者だったんだよ」

「白く咲く子だけ、特別なんですか」

「何でもない小さな花なんだけど、気まぐれな奴でね」

「悪さをするんですか」

「いやいや……心で思っていることね。願い事を……勝手に叶えてしまうんだよ」

「えっ」

 おじさんの話は、わざと怖がらせるような言い回しをしているが、素直に受け止めると、願い事を叶えてくれる魔法のお花だっと語っているようだ。

「時折、心の声を盗み聞きしてしまうんだね、でも大丈夫。今はそんなことしないから」

 涼しい声色に変わり、その経緯を説明をしている。
 それは、ある少女が枯れたペンタスを悲しんだのが切っ掛けに、願いが事が叶わなくなったと言う内容だった。

「なんで願い事を叶えなくなったんですか?」

「どうしてだろうね。少女を悲しませた事に、罪悪感を持ってしまったのかな?」 

 私はその話を聞き、叶わない理由付けをしていると思った。
 作り話だと頭で理解していながらも、ペンタスと少女はその後どうなったのか気になっていた。

「少女は、どんなお願い事をしたのですか。花はその子の願いを叶えたのですか」

 おじいさんは、軽く顔を振った。

「その子はね、願い事を叶える花だとは知らなかったんだよ」

「……」

 少女の話に興味を持ってしまうと、心の中ではそのおとぎ話を膨らめせていた。