駅に着くと大勢の人ごみの中、さとし君は既に到着していた。
 細身の体型に小顔の彼は、今流行のアイドルのように髪の毛を伸ばしている。
 手を腰に当て、気取っていたさとし君だったが、蘭の浴衣姿を見るなり、その表情は驚きに変わっていた。

「さとし、お待たせ」

「橘です。はじめましてさとし君」

 さらに先生が挨拶をすると、同行している人物が誰であるかを理解し、彼は言葉が出せずに口を開け頭を下げていた。

「さとし、なに緊張しているの?」

 蘭が笑いながら話すと、彼は弁解するように答えていた。

「だって、ほら、会社の人とは聞いていたけど、まさか社長さんが来るとは思わなかったから」

 そう説明し一拍おくと、声をかけるタイミングを測るように、たどたどしい挨拶をしていた。

「初めまして、あのー、……相沢さんがお世話になり、なっています。鈴野さとしと言います」

 事前に蘭から聞いていたが、彼もこの日のために浴衣を借りたらしい。
 当初は拒否をしていたらしいが、蘭のことを考え服装をあわせて来たのだろう。

 少しサイズが大きくも見えるが、彼なりの礼儀作法が嬉しく感じる。
 緊張のせいだろうか、顔を伏せる彼の姿に、自然に背中を叩いていた。

「よろしくね、私、霞京子」

 挨拶を済ませ、お祭りのある神社に歩き出す。
 守君は何も考えていないのか、高校生である彼に対し、友人のように話をしている。

「さとし君はビール好き? 神社に着いたら出店で飲もうよ」

 心開いた問いかけに、隣で聞いていた蘭が答えた。

「守さん、私達未成年ですよ」

 そんな光景を目の当たりにして、私は今日の目的を忘れてしまうほどだった。