お店の方の言葉に、周りの男性達が蘭に気付くと、ヒソヒソと声が聞こえ始めた。

「おい、凄く可愛い子がいるぞ」

「本当だ、いやに目立つし、芸能人みたいだ」

 ふたたび歩き出してからも、駅までの間すれ違うほとんどの男性は蘭を目で追っていた。

「可愛いなー」

 言葉が聞こえると、蘭は恥ずかしそうな表情を浮かべ、それがまた男性の気を引いてしまう。

 へーやっぱり、注目されているんだ。まあ、浴衣の効果もあるのだろうが、あの人も、この子も見ているじゃない。

 あまりにも蘭を意識する人が多いので、私は驚き気になっていた。
 蘭は恥ずかしそうに顔を伏せながらも、この状況を誤魔化すように私に問いかけてきた。

「あのー京子さんが話してた、作戦ってなんですか」

 その質問に答えようとしたが、すれ違う男性の目線が気になっていた。

 なーに私のことは誰も見ていないじゃない。遠慮しているのかしら? それとも完璧すぎて、高値の花だとあきらめているのかしら? 

 美人過ぎる自分を理解しながらも、あまりにも差別化する男性の視線に、目立つ浴衣を選べばよかったと後悔をしていた。

「先生、来年は目立つやつを、貸して下さい。蘭の浴衣より、もっと目立つ浴衣を」

 不貞腐れながらもそう話すと、先生は真顔で答えていた。

「あら、貴方の今着ている浴衣はとっても素敵よ。私の染めたものなんかと比べてはダメ」

 私はなぐさめるような言葉にも不貞腐れていると、先生は少し考え小声で教えてくれた。

「実はその浴衣を染めた方は、この前人間国宝に選ばれたのよ。それを自然に謙虚に着こなすなんて流石だと思うわ。あなたのための作品見たいよ」

 その言葉に、喜んでいいのか迷っていた。ただ特別な浴衣であることを理解すると、まんざらではなくなっていた。