自宅に帰宅した後も、心の中では、スッキリしない気持ちが続いていた。
 茜に対し、軽率に行動や発言をしている自分が、無性に情けなく思えたのだろうか。

 優先順位を付け、理由づけしていても、蘭の気持ちにも感化されていた。
 
 真面目に恋愛に向き合っていない自分に、後ろめたさを感じてしまったのだろうか。

 そんな卑屈にかられた私は、自分を救うかように、正に当てた手紙を書こうと考えた。
 
 ペンを持ち、書き初めの言葉を考えていたが、数十分の時間を経過させてしまう。

 やはりダメだ。気持ちの整理がついていないのに、手紙なんて書けるわけがない。
 
 危ない場所だから、行ってほしくない。定のことは認めている。
 このことを書けば良いんだけど、文書の出だしさえも浮かばない。
 
 とりあえず書き始めなければ。

 強引ながらも筆を進めれば、修正しながらも文書が書けると考えた私は、取り敢えず、ありきたりの言葉で文書を書いてみた。

 拝啓、残暑の中いかがお過ごしでしょうか。先日近所の小道を歩いていると、紅葉に色づき出した木々を見上げ、小さな秋のおとづれを。

 「何これ、私じゃないじゃない。誰よこれ」

 予測不能な自分の失態に、おもわづ声を出していた。

 いけない、いけない。これでは、他人行儀すぎるわ、もっと普通に。普段の私の言葉で書かなくちゃ。
 
 いつもお世話になります。橘デザインの霞です。
 ……駄目だわ、これでは仕事のようだ。
 
 遠回しに引き止めるにしても、とりあえず認めていることを伝えなきゃ。
 認めていること、認めている? 
 何で危ない場所に旅立つあいつを、認めなきゃならないのだろう? 

 内容が内容だけに気が滅入ると、ボールペンを投げ捨てるように置いていた。 

「クササンタンカ、クササンタンカ」

 はぁー これ本当に、おまじないだったかしら? 

 それからも幾度か手紙を書こうと試みたが、今の気持ちでは、伝えたい言葉が思いつかないでいた。

 目を閉じ考えると、窓際の植物までもが何故かチラつき、邪魔をされていようだった。

 まるで執筆を止めるかのような、錯覚を思わせるほどだった。