いつもの帰り道、空には先ほどの月が、私の後を追ってきているようだった。
 この町に戻ってきてから、やたら意識してしまう月と星。
 好意の持てないこの月を見るのも、久しぶりに感じていた。

 やだ、あの月。私を監視しているみたい。

 ベンチに座った後も、意識してしまい時折確認していた。
 不安の中、空から聞こえる風の音と何処からか流れるさわやかな匂いに気付くと、喜びのあまりに普段茜が現われる方角に顔を向けていた。

「京子さん」

 姿が確認出来ると、ため息のような言葉を投げかけてしまう。

「良かった」

 私のうなだれる仕草を見てか、茜は困惑した表情で問いかけている。

「どうしたのですか」

「いえね、この前から会えなかった日がつづくから、そのこと考えたら急に心配になっちゃって」

 話しを聞く茜の何気ない表情を見て、不思議な感覚を味わっていた。
 別に会う約束を決めていないので、会えない日があっても不思議ではないはずなのに。

 そんな常識的な考えの中、合えなかった理由を考えてしまった私と、理由を考えてはいけないと、中緒する私が入り混じっていた。

 この日の茜は、何故か当初出会い映ったような、不思議な存在に思えていた。
 茜は私の気持ちを察しているのか、目をそらし、どことなく寂しそうに思える。
 私達は少しの間、ベンチに座り気まずい時間を過ごしていた。

 沈黙の中、明るい話をしなければいけないと考えていたが、頭に浮かんだ言葉は、以前先生が冗談で語った茜のことだった。
 私は心の中で、茜に語りかけていた。
 
 茜。あなたは存在しているわよね、まさか夏に咲く花の妖精か何かなの? 
 冬になれば枯れてしまい、私の前から消えてしまうとかじゃないわよね。
 
 そんなことを考えると、何だか悲しくなってしまい、彼女の頬に触れてみたくなっていた。