夏祭りの前日、帰りの戸締りをするため窓際に訪れると、夕方の空模様を確認していた。

 空も綺麗な水色だし、この様子だと、明日も大丈夫そうね。

 自分を安心させるような言葉を選び、緊張を誤魔化している。

 フッフッ、自分のこと棚上げにして何をやっているのだろう。

 数日前に正に久しぶりに会い、改めて彼への気持ちを考えてまう。
 十年の月日は、恋人以上に絆を深めている。
 危ない場所に行ってほしくはないが、彼の気持ちを考えると、引き止めるのも酷だし。

 仕事を諦めて、正に着いて行こうかとも考えたが、ボランティアに同行しても何も出来ないし、そもそも近くに住まいを持ち、暮らすことなんか出来ないと理解している。

 それに、数ヶ月後にこの場から離れたら、今度は私がみんなを置いて、この場から旅立つみたいんで後味悪い。

 彼に対しどうしたら良いのか、何が本当の気持ちなのか、わからないでいた。

 窓際の植物が視界に入ると、何故だかと卑屈な気持ちに浸る私に対し、心配しているように映っていた。

 滑稽な自分に呆れながらも、植物に近づき、安心させるため心の中でつぶやいていた。

 大丈夫よ、今は気持ちを切り替えて、明日は上手くやるから。さとし君に気持ちが届くようにね。

 そんな考えの中、植物を見つめた私の心の中では、もう一つの気がかりが浮かび上がっていた。

 茜。あなたにしばらく会っていないけど、大丈夫よね?

 眺める空に、小さく輝く一番星に気付くと、不安な気持ちは少しほぐれたかのように、意識がそちらに向いていた。

 へーっ、夏なのにこの時刻から一番星が見えるんだ。

「京子さん、お先に失礼します」

 背中から聞こえる、守君と蘭の声に、私は振り返り手を振った。

「お疲れ、二人とも明日の浴衣、忘れないで持って来るのよ」

「京子ちゃんも帰りましょ」

 先生からも声がかかると、閉める窓に手をかけ再び覗き込むように空を見上げていた。
 先ほど見つけた一番星は、何故だか確認することが出来なくなっている。

 少し気がかりな思いをしながら視線をそらすと、そこには何かを企んでいるような月の存在が、現れていた。