週があけ会社まで近づくと、いつものように玄関先を掃除する、蘭の姿が目に映った。
 その隠しきれない笑顔からは、良いことがあったんだと予感させてしまう。
 私の声も自然に、張りのあるものになっていた。

「蘭、おはよう!」

「おはようございます、京子さん。……さとし。お祭りの日来てくれると言っていました」

「そう、良かった。さとし君が居ないと話にならないもんね」

「はい!」

 恥ずかしそうに、再び掃除を始める蘭であったが、確認したいことがあり、そのまま会話を続けていた。

「そう、それとね、お祭りの日なんだけど、作戦だと浴衣を着て欲しいの。持っている?」

「浴衣ですか? いえ、持っていないです。着せてもらった記憶も……それと作戦ってなんですか?」

「ふーん、そうなんだー」

 予測していた言葉に納得すると、頭の中の感ピューターが、次の指示を出していた。
 次の段取りのため社内に入って行くと、先生の姿が確認し、話しかけながら側に寄っていた。

「おはようございます先生。あのーもうすぐ夏祭りがあるじゃないですか、その時に浴衣をお借りしたいのですが、持っていますか?」

「おはよう京子ちゃん。えーとっ、浴衣?」

 唐突な話に先生は、頭の中で考えているようだった。
 後から入ってきた蘭は入り口付近で立ち止まり、向き合い話す私達に注目している。
 先生はゆっくりと蘭を確認した後、私を見て答えた。

「ええっ、持っているわよ。使ってちょうだい」

 何かを諭したように優しい表情のまま頷いている。私は言葉足らずだったこともあり話をつづけた。

「蘭と、出来れば私の分も……」

 先生はその言葉を最後まで聞く以前に、全ての状況を把握しているかのように答えた。

「ふっふっふっ、大丈夫よ。仕事が終わったら、選びに寄りなさい」

 物持ちの良い先生のことだから、余分に数着あることは予測していた。
 平然と話す先生の言葉に、私と蘭は目を合わせ頷くように喜んでいた。

 だがしかし、若者が着るなら華やかな物がいい。
 それが無ければ、せめて白系の物で、装飾などでで飾り付けしようと考えていた。
 調子に乗った私は、確認のためさらに聞いてみた。

「因みにどれ位持っていますか? 出来れば明るい色合いのものをお借りしたいのですが」

 その言葉に先生は笑顔になりながらも、困った感じで答えた。

「さーっ、分からないは、どれぐらいかしら」

 頭の中で思い出しながら、ひーふーみーっと呟き、指を折るように数えていたが、両手になっても繰り替えすと途中で止めてしまった。

「ふっふっ、ごめんなさい、わからないわ。でも何着からか選ぶことはできると思うわよ」

 私達は期待を膨らませ、その日、先生の家に浴衣をお借りしに出かけた。