「でも、期待に答えようと無理しちゃだめよ、礼儀と無理は別物ですから…………ね!」

 最後の語尾で人差し指を顔の前に持って行き更にウインクをしてみたが、蘭はそのポーズを見ることもなく、チリ紙で鼻をかんでいた。

「ありがとうございます」

 私は出した指のほこ先がなくなると、乱れてもいない前髪を直し答えていた。

「どういたしまして」

 気兼ねなく会話が出来るようになっていたが、あれ? 今日は何で私達一緒に食事したのかしら? 私はおでこに指先を当て記憶をたどっていた。

 不思議そうに見つめる蘭の目と鼻は、赤くなっている。

 うっふっふっ、会社と違い子供らしい顔。会社と違う?……そうだ、思い出した。

「蘭、あなた最近元気ないけど、オートバイの彼と破局した」

 不覚にも本題の元気が無い原因が思い出されると、勢いのあまりデリカシーの無い言葉をかけてしまっていた。
 ストレートな問いかけに、驚いた蘭は困り言葉を選んでいた。

「京子さん、あのその、特別な人は、いますか?」

 顔がさらに赤くなり、私を直視出来ないほど恥ずかしがっている。
 そうよね、年上の人と恋人の話をするのなんて、友達とするより恥ずかしいわよね。

「彼氏、いるわよ、でもねー今喧嘩中なんだ」

 その言葉に蘭は驚き、言葉を失っていた。

「興味ある? 教えてあげる。うんうん、聞いてくれる?」 

 私は蘭に正との出会いから、付き合う切っかけ、そして喧嘩の理由を説明した。

「正さん、外国に行っちゃったら、後悔しないですか」

「うーん、正直分からないの、でも何かが自分の中で納得出来ていないのは確かね」

 私の現在の恋愛環境を説明すると、蘭も自分の心境をしゃべり始めた。