八月にもなると、夏バテっと言う言葉が出回るようになり、周りの人々は、認識し始めたかのように元気が無くなってしまう。

 最近の蘭も元気が無いように感じていたが、どうやらそれとは違うようだ。
 学校は夏休みのため、今の時期は早上がりはせず、会社の業務は五時まで行っている。

 別におかしい訳でもないが、早々と帰る蘭。

「お先に失礼します」

 今日も五時になると、挨拶をして帰って行った。
 会社のドアを閉まると、それまで笑顔だった先生は表情を変え、心配そうにしゃべり始めた。

「最近相沢さんの元気がないように感じるのよ、気のせいかしら」

 先生も感じていたのか。普段からあまり笑顔を見せないので、特にこれっと言って代わったことはないように感じるが、やはり少し気になる。

 足音をたてぬよう、大股でゆっくり窓に近づくと、会社から帰宅する、蘭の姿を確認していた。
 以前と違うといえば、あれ、今日はオートバイの彼迎えに来ていないじゃない。

 疑問に思いながら、駅の方向に歩く蘭の後ろ姿は、とても寂しそうに映っていた。

 次の日も、また次の日も、駅に向かう後ろ姿を見ていたが、オートバイの彼は迎えに来ることはなかった。
 夏休みになっても、時折会いに来ていたのに。
 
 仕事が忙しく、会えないのかしら?
 あの年代の恋愛って、人生の全てみたいなもんだから、きっと寂しいのね。

 最近、おせっかいであることを認識している私は、週末になると声をかけずにはいられなくなっていた。

 二人っきりになって、元気のない理由が、彼のことでは無いかとたづねようと考えている。