「聞いた話ですよ、噂ですよ」
「あはっはっ、大丈夫よ続けて」
 強気で出た発言ではあったが、彼の表情から後悔のような思いを感じていた。


 いえ、逆向もバネに変えよう。
 そんな考えは、私にとって悪い内容であることを予感していたのかもしれない。

「霞さんと仲が悪かった先生達が、裏で手を回していると言うか、イギリスから戻った霞さんの名前では、評判が悪いんじゃないかと発言したことで」


「あー、年配の先生達ね、相変わらず嫌な奴らね」
「それに現在、霞さんが居ない二年の間に、注目される若手のデザイナーが数多く出てきて、第二、第三の霞さんのような存在なんです」


 想像しなかった話が付け加えられたことに、心臓が縮むかのような感触を覚えた。
「要は出る杭は打たれて、変わりはいくらでも居るってことかしら」
 最悪なことでも大丈夫だと思えた自分は、いつの間にか消えていた。


 その話で仕事が回ってこないことにも理解が出来る。
「そうよね、チャンスよね。この業界だって生き残る為に日々戦いだもの。油断して隙をみせちゃった。それに時代も進み、デザインの勉強する環境もいいもの、若手も育つわ」


「その子達も海外を視野に」
 これ以上の言葉は、苦痛でしかなかった。
 私自身を傷付けてしまう。そう思うと話を慌てるように止めていた。


「あ、ありがとう、大体の内容はわかったは、これで対応策が建てられる、ごめんなさいね」
 私は軽く手をあげ、その場を立ち去っていた。
 しょうがないよね、実際逃げるように帰ってきたんだもん。今の時期に私の名前が残る作品を使うなんて、自分ならしないわ。


 その場では強がって見せた私だったが、紅茶を飲むことを忘れ、気が付くとマンションに帰っていた。