ページをめくる京子さんは、喜びの混じる声で話していました。

「へっー。作画の周りには数多くの文書が書き加えれているじゃない。先生がアドバイスした言葉や表現方法を、今後の注意要点として、細かく書いているんだ」

 感心するような声からも、心情の笑みが感じ取れます。
 あるところでめくる手を止めると、ひときは声が大きくなりました。

「凄いじゃない。会社のロゴマークを考えたの」

 その言葉に恥ずかしくなり、一瞬にして顔が火照ります。
 私は練習以外でも、色々な文字や形で書いた、橘の文字のことを忘れていました。
 書いた当初はどれもそれなりに、格好が付いていると感じていましたが、ノートを改めて見ると、数ヶ月の時間が、自分の未熟さを気づかせます。

 私は汗を感じながらも、平常心を装い答えました。

「他の会社では有るじゃないですか。うちの会社も有ったらっと思いまして。……そうだ、京子さんなら……」

 こんな機会は滅多にありません。
 プロの人なら、どのような表現をするのでしょうか。
 机上のペン刺しから、鉛筆を手渡そうとすると、京子さんはその行動を遮るように声をかけます。

「うん。いいんじゃない。お茶入れるから、休憩しようか」

 残念に思い視線を向けると、京子さんは寂しそうな目で、閉じたノートを見つめています。
 作ろった、口元だけの笑顔からは、今どのような気持ちで作品を感じ取ったのか、私にはわかりませんでした。
 京子さんは表情をこちらに向けることなく、給湯室に向かっていきます。

 立ち去る後ろ姿を見て、残念に思いました。
 前のようにアドバイスは、してもらない。
 全否定されれば正直ショックですが、作品に対し何か言葉をかけて欲しいと感じます。

 才能のない私の作品に、何も感じなかったのでしょうか。

 プロからしてみたら、私の描いた作品なんかは、資材置き場の子供の絵にも、及ばないのでしょうか。