家に着くと一階の居間では母がテレビの情報番組に夢中になっていた。

「お母さん、ただいまぁ」

 母は返事をすることも無く、画面に食い入るような状態だ。
 私は部屋に入ることなく扉の前で呆れるように話しかけていた。

「やだお母さん。声をかけているのだから返事ぐらいしなさいよ」

「うっうん」

 注意するもおろそかな返事で答える母だったが、突然テレビを指差すと慌て話しかけてきた。

「ほら見て京子。滅多にみられないらしいから。満月の明かりで咲いて朝には枯れてしまうお花ですって」

 画面に映し出されているのは、白く咲く大きな花だった。
 過去のものながら早回しで再生された映像には、月明かりで花開くと数時間後にはしぼんでしまう一部始終が映っていた。

「へっー、世界は広いわねー。こんな不思議なお花があるの」

 花には興味は無いと思っていた私だったが、知識や触れ合う機会が増えたことにより最近身近なものに感じている。

「こんなに綺麗なお花なのに、短命なんて可哀そうねー」
 
 呟く言葉に共感し、悲しくも映ってしまう。
 花びらを着飾るようにまとい開いたその姿は、何者にも負けない美しさを持っていた。
 母は振り返り立ち尽くす私を見ると、にやけ顔で約束事のような言葉交わしてくる。

「貴方はこんなガサツだけど、健康だけは取り柄でよかったわね」

 冗談で話す言葉に「はい、はい」っと呆れ答えていた。
 二階に上がるため階段を上り始めると、思い出したかのように声をかけてきた。

「そうだ京子。正さんから電話が有ったわよ。遅くてもいいから連絡がほしいって」

 母からの気兼ない言葉だったが、緊張のようなものを感じていた。
 部屋に入っても、何も出来づに立ちすくんでしまう。

 先生の言うようにもう一度正と話さなきゃ。

 そんな考えもあったが、どんな会話をすれば良いのかわからず、その日から正に電話連絡することは出来なくなっていた。