先生には失礼ながらも、親には心配をかけられないと考えてしまっていたり、久しく会っていない友人に相談も出来ず悩んでいた。
 ため込んだ心の言葉は、甘える形でこぼれてしまう。

「先生……実は」

 私の悩みは日々形を変えていた。

 恋人の正が危険な外国に行ってしまうことは、私にとって大事なことのはずなのに、 世界で苦しむ人のことを考えると、恵まれた環境を喜んでいる自分に罪悪感を覚えてしまう。
 余りにも大きなその悩みは、知らなければ良かったなどと、感じるほどだった。

 会話の後、先生はしばらく考えていた。
 そんな先生を見て私は、顔を下げてしまう。

「むずかしい問題ね」

 沈黙後の重みのある言葉に、打ち明けたことを後悔してしまっていた。
 そんな難問にもし解決策が有るのならば、すでに誰かが行い、こんな気持ちにはならなかったはず。
 困らせていると感じると、明るく言葉を切り返し、誤魔化そうと考えた。

 そんな私に、先生はこう話してくれた。

「学校の授業であなた達と絵画の勉強もしたことが有ったわよね。肖像画や風景。歴史の場面っと様々なことを学んだと思うけど、その中の一つ、ゲルニカのこと覚えているかしら」

 先生の言うその作品は、過去にスペインが無差別に空爆され、それに苦しむ人々を芸術家ピカソが、一九三七年に描いたものだった。

 彼の幻想的で独特な画風からは、人や動物達の悲痛の叫びが聞こえるほど、目にした人々の心を締め付けさせ、悲しみや絶望感にを与えた作品だ。