「その子はどうして、その植物を気にかけていたの?」

「それが、まだその話はしていなくて、ただお花が好きな優しい子みたいなんです」

「あら、貴方と同じね。ご近所さん」

「えっ? いえ帰り道の、この植物を拾った水路横のベンチでたまたま会うだけなんですけど、住まいは確かこの辺って……」

 会話の後、先生の眉を上げた表情を見て、私は少の疑問を感じていた。

「そう言えば、彼女のことあまり知らないし、たまたまとはいえ、私に合わせたように帰宅時間が一緒です」

 それまでとは違った感情で話すと、先生はを楽しんでいるかのように話した。

「その子現実には存在しているのかしら? 京子ちゃんにしか見えなかったりして」

 私は寒気を感じながら、慌てて答えた。

「やだなー先生、違いますよー、おどかさないで下さい」

 取り乱す私に、先生は笑みを浮かべている。

「冗談よ、冗談。今お茶を入れるから一緒に飲みましょう。椅子にでも腰をかけなさい」

 そう話しながら、給湯室に歩いて行った。
 お茶が机の上に置かれると、先生は膝が触れそうな距離で椅子に座る。
 お互いがお茶を一口飲むと、先生は気にとめてたかのように、私にこんな言葉を切り出してくれた。

「京子ちゃんは、いつも明るく振舞っているけど、心配事とかあるのではないかしら」

 思いもよらなかった言葉に、表情を変えてしまう。
 内心では、嬉しかった。
 でも、強がり装って答えてしまう。

「何でですかー? 私はいつも元気ですよ」

 明るく返すと、先生は椅子から少し腰を浮かせ、私の肩に軽く手をそえた。 

「ならいいんだけど。私には時折寂しげな表情を浮かべているように見えるから」

 二人しか居ないこのタイミングで、心の中の不安事を先生に打ち開けようか迷っていた。