ふと会社の入り口に目を移すと、出かけ先から戻ってきた先生が立ち尽くすように私達の光景を見ている。

「あら、何だかにぎやかね」

 私達のことを見て嬉しそうな言葉がかかると、蘭は先生の手荷物を受け取るべく近寄っていった。

「おかえりなさい」

 小走りな少女のその後ろ姿は、まるで学生時代に戻ったかのような錯覚を私に見せる。私はその光景に断片的な当時の記憶と、空気の匂いみたいなものを思い出していた。

 始めて見る光景なのに、何故か懐かしい。

「お茶、入れますね」

 先生と話す蘭の言葉に、すぐさま現実に戻ると、懐かしい感覚に喜んでいる自分がそこに居た。

「あっ、いーよ私が入れるから、待っていて」

 手荷物で手が塞がりながらも話す蘭を見て、私は慌ててそう話した。
 給湯室に入っていくと、再び嬉しさがこみ上げ一人顔を緩ませる。
 笑顔は見られなかったが、今日一日で距離が縮まったように感じていた。

 湯飲みを準備しながら給湯室に居ると、狭い社内のためか、二人の声がわずかながら聞こえていた。

「楽しそうだったけど、良いことでもあったの」

 先生の嬉しそうな問いかけに、蘭は弾む声で答えている。

「二人で菓子パンを食べていました」

「そうなの、よかったわね」

「はい」

「京子ちゃんは元気で明るいでしょ」

「はい、楽しい人ですね……京子さんって」

 私は名前で呼ばれたことに嬉しく感じると、心のつぼみが花開くようだ。
 早く二人の側に行きたかったが、お茶の葉の置き場所が分からない私は、顔がほころんだまま一人、悪戦苦闘していたのだった。