少しがっかりする私に反し、隣からは押し殺す声が聞こえる。

「ふふっ」
 
 明らかに笑い声だ、私は蘭の顔が見たく覗き込もうとしたが、受話器のコードが邪魔で覗き込むことが出来なかった。

「えっ、なぬ? どうかすたのかにー」

「いんえ、わかるますたにー。ありがとうございますどすえ」

 電話の途中から私の意識は、あんぱんのことなどどうでもよくなり、蘭が笑顔かどうかが気になる。

「今、私が電話中に笑ったでしょ」

「いえ」

 顔を見せないが、声に少し笑い声が混じっている。

「ちょっとー顔みせなさいよー」

「笑っていません」

 表情を見られないように離れる蘭を、無理にでも笑わせようとする私は、わきの下をくすぐりながら追いかけた。

「こちょこちょこちょ」

「それはズルいですよ」

 逃げる蘭を追いかけるようにふざけあっていると、その拍子にぶつかったのか、窓際に置かれた拾った植物を倒してしまっていた。

「あっーごめんごめん」

 私は謝りながら、こぼれた土を容器に入れた。