数日後、会社に一本の電話がかかって来ていた。
 電話の相手は、町で出会った編集部の芝旗君からの紹介だ。
 私は電話で彼に声をかけ、橘デザインを宣伝してもらっていたのだった。


 今日はその兆しが見えたのか、お話をしたいと連絡をあったのだ。
 チャンスをものにするため、資材置き場から集めた作品の資料を持たせ、守君を言い聞かせていた。

「いーい、守君。この資料以外にも、とりあえず何でも出来ると言うのよ、考えるのはその後。他の資料も会社にはいっぱい残っているし、私もデザインに加わったから何とかなるから」

「はい、わかりました」

「ハンカチ持った」

「はい」

「チリ紙は」

「持ちました」

「とりあえず一軒、頑張って」

「はい、行ってきます」

 力強く送り出すと、社内には私と相沢さんの二人だけになっていることに気付いた。
 この日先生は、お客さんとの打ち合わせのため、出掛けていたのだった。
 静かな社内。机に向き合う相沢さんを見つめ、自身の表情が曇って行くのがわかるようだった。


 何か気まずいわね。彼女、無口だから会話が無いのよ。やっぱり年上の私から、しゃべらなきゃダメかしら。

 話す言葉に困った私は、きっかけになればと思い、今朝購入したあんパンを差し出してみた。

「相沢さん、あんパン食べる? 粒あんだけど」

 彼女はあんパンを見つめた後、私の顔を見ている。

 あれ、あんパンには興味ないのかな? 一応スイーツのつもりで今朝購入したのだけど。ヤングな彼女にはクリームパンの方が好みだったかしら。