帰宅途中、頭の中には、帰り間際に見た過去の作品が離れないでいた。

 その道のプロが描いた作品だから、到底かなわないのはわかっていたが、現在の私には足元にも及ばないことを痛感している。
 特にイラスト、可愛らしくデフォルメすることが私は苦手だった。

 今度はイラストかー、悩みがどんどん増えるじゃない。

 そんなことを考えながら、水路の近くに置かれたベンチに近づくと、当たり前のように座っていた。
 今来た道を振り返ると、私の他には誰も居なく、時折頬に当たる風だけが付いて来ただけだった。
 間隔を開け植えられた木々達は、優しく日差しを遮っている。

 暖かなその空間の中、頭の中の考えを、ため息交じりに呟いていた。

「はあっ、帰ったら練習しなきゃ駄目よね。私のは線が細からなー、なんか参考になるものないかしら?」

 少しながら、前向きな気持ちになっている。
 気分的に晴れているとは言えないが、落ち込んでいることに馬鹿馬鹿しく思えたのだろうか。

 単純な私は、遊園地から聞こえた楽しそうな声や、暖かな春の日差しが誤魔化してくれたものだと勝手に考えていた。

 借りてくればよかった。あれを見て練習するのが手っ取り早かったのに、何で持ってこなかったんだろう。

 私は会社で見た作品の記憶を、思い出そうとしていた。

 うっー思い出せー、思い出せー。

 思い出そうと努力したが、頭の中ではお昼ご飯はなんであるかなどと、食欲が邪魔をする。

 ダメよ真面目に考えなきゃ。

 じわじわと浮かび上がる会社での記憶は、過去の作品ではなく、怖がる相沢さんと、折り紙を折る守くん。
 そして窓際に置いたままの植物の存在だった。

「あっーまた置いて来ちゃった」