「今日から一緒に働く霞京子さんです。京子ちゃんにはデザインを担当してもらいます。守は知っているけど、明るい子だから相沢さんとも仲良くなれると思うわ。貴方からも何かある?」


 先生の方から紹介が終わると。私は辺りを見渡していた。
 私の隣からは相沢さん。その斜め前に先生。そして相沢さんの真向かえから、守君の視線が集まる。
 私は勇気を振り絞り、訂正の言葉を伝えようとすると、窓際に置かれた、植物が視界に入った。


 そうだ。本当はあの子を、迎えに来たことが発端だったんだ。
 離れたところから放つ視線は、なぜか他人事のように、澄ましているようにも思える。
 私がどのような回答をするのか、高みの見物をしているかのようだった。

「京子ちゃん。いいの?」

 生意気な植物に気を取られていると、言葉を考えることが出来ないでいた。
 先生の質問に慌てると、返事が思いつかないまま、流されるように答えてしまったのだった。

「き、今日から、お世話になります。霞京子です」

 この日、生きた心地がしないとは、このことを指すのだと、生まれて初めて実感するのだった。
 拍手の中、先生は壁に掛けられている時計を見つめ話した。

「今日は初日だし、業務は少しずつ覚えて行きましょう。取り合えづお茶でも飲んでいて」

 私は席に座りその言葉に緊張しながら、支持をされるのを待っている。
 前の席では守君は折り紙を折っていて、見覚えがあるその光景に懐かしさを感じていた。
 まだ続けているんだー。昔から折り紙が好きで暇さえあれば折っていたよね。


 出されたお茶をすすり、ほっとすると、子供の頃を思い出し懐かしんでいた。
 年齢が私より一学年下の守君は、周りの男の子達によく泣かされいたわね。
 私が何度も助けたことから、それ以来後をついて来るようになり、よく遊ぶようになっていたわ。 

 ザリガニを取りに底なし沼に行ったし、塀の上だけを歩き探検もした。

 お寺に実る銀杏を全てボール落としたりもしたこともあったけ。フライパンで炒め、おやつ代わりに食べたわ美味しかったー

 大人が駄目だという遊びは、みんな私がこっそり教えてあげたんだ。
 本当、あの時の私ったらおせっかいだったわ。

 私は頬を手に乗せ、思い出に浸っていた。
 お茶を再びすすると、余りの美味しさに会社であることを忘れくつろいでしまう。
 何気なく壁に掛けられた時計を確認すると、時刻はすでに十時を回っていた。

 もう十時かー。あれ、仕事はいつ行うんだろう? 
 確か仕事は八時半からだったわよね。いくら初日の挨拶があったと言っても、まったりしすぎじゃない?