ほんの数十秒。彼女を見つめている間に、背後から薄暗く染まる夜空に変わっていくのがわかるようだった。
 そのことに意識すると、我に返るような気持ちになっていた。
 なにしているんだろう私ったら? 帰ろう。
 

 私は振り返り、その場を離れようと歩き出す。

 目の前の景色は、一瞬にして、青黒く染める夜空に変わっている。
 違和感を覚える状況の変化に、足が止まり身動きが取れずにいた。


 そして空中央には、私を見下ろすかのような月が浮かび存在している。
 月は昨日とは違い、隠れることも無く、大きく存在を表現したままだった。

「やだ、またあんなに大きくハッキリ見える。あっ、声が出ちゃった」

 驚きの余り、独り言が大きな声になると、恥ずかしさと同時に手で口を押さえた。

 振り替えりながら彼女を意識すると、驚く表情で私を見つめ、昨晩会ったことを思い出したかのように、戸惑いながらも軽く会釈をしてくれた。


 気まずい視線で注目されている事がわかると、私も慌てるように会釈を返し、逃げるようにその場を立ち去っていた。