どことなく優しく、物静かなところは、正にも似ているのかもしれない。
 うつ向き見ていた足元には、燃えるような夕日のせいか、今にも切り離れそうな、細く長い影を引いていた。

 ……今日、夜にでも正に電話をかけてみようかな……

 意地を張らず頼めば、外国に行くこと諦めてくれるかも知れない。

「クササン、タンカ」

 下がった顔をあげるように背筋を伸ばすと、今来た道を振り返えっていた。
 目を細め見つめる夕日は、突き刺すような光を私に与えている。
 私はこらえきれず、視線をそらした。


 周りの景色は、先ほどよりも赤黒く染まり、夜のおとづれを迎えようとしていた。
 何気なく空を見上げ、一番星を探している。
 そうだは、子供のころはこうやって、一番星が出るのを待っていたな。


 しばらく見つめていると、夜の訪れを告げる、一番星が顔を覗かせた。
 あっ、タイミングいいじゃない。
 
 周りを軽く見渡し、人がいないことを確認すると、その星に向かい話しかけた。

「こんばんは、これから夜が始まるのね」

 そんな優しい景色の中、虚しく思えたのは後ろ向きな考えしか持てていないからだろうか? 
 私は勢いよく立ち上がると、汚れを落とすようにお尻を強く叩き、残ったコーヒーを飲み干した。
 

 気を取り直そうと無理に明るく振舞い、カバンを持つ反対側の手をブンブン大きく振って歩き出した。