「それでね、京子ちゃん。相談事と言うのは、ここで働いてくれないかしら? お客さんの要望だから、好きなようには作品は作れないけど、その中から何か発見があるかもしれないじゃない」


 その言葉は、今の私に居場所を与えてくれる、何よりの救いだった。
 先生ならもちろん知っているはず。いくらデザイナーだと言っても、専門が違うし画力に変な癖も付いている。
 私をここに呼んだのは、コンテストに落選し落ち込んでいると思い、声をかけてくれたことも理解した。


 ただ現代アートデザイナーとしての肩書が、今すぐにでも消えるようで悲しくも思えてしまう。

「先生、お気持ちは嬉しいのですが、正直自信も無いし、私には出来ないと思います」

 弱気な発現にも動じることなく、先生は優しい表情のまま私を見ていた。
「なーに、あなたらしくない、当たって砕けろでいいのよー、気楽なもんよ」
 先生は微笑みながら、言葉の勢いとは違い私の腕をポッンっと優しく叩いた。 


 昔からそうだ。私にプレッシャーを与えることもなく、自ら乗り越えようとさせる先生の言葉。
 それでも私の中では、寄り道のようで焦りを感じてしまう。


 今すぐにもアートの作品にたずさわり、今後の準備をしたい気持ちがある。
 ただ先の予定されていない手探りの状態に何日、何年の時間がついやすのかと考えると、不安でしかなかった。

「ありがとうございます。図々しいようですが、返事は少し待ってもらってよろしいですか。自分でもわからなくて」

 その日は小さな判断しか出来ずに、その場を離れていた。