キラキラした光景から振り返ると、少し薄暗く物静かな空間に先生が座っている。
 そこには学生時代の恩師の容姿と違い、弱々しい姿に見え寂しく思えてしまった。
 私はその気持ちを誤魔化すかのように、本来の要件を尋ねていた。

「先生、電話で話していた相談ってなんですか?」

 先生は電話の要件の前に、これまでの話をしてくれた。
 今から二年前、教員を定年退職間際の先生の前に、悲しい現実が突きつけられた。
 それは会社経営者である旦那さんが、突然病気で亡くなってしまったのだ。


 本来なら息子である守君が引き継ぐのだが、当時は守君に会社の経営をする自信が無く、先生は従業員の方達と話し合った結果、会社を閉めることを決意した。

 デザインを担当していた人達は、条件の良いとこや独立などをし安心をしていたが、先生は旦那さんが経営する会社がなくなってしまったことを、寂しく思い過ごしていたそうだ。


 残された一人息子の守君と、定年退職を迎えた先生はお客さんの引継ぎのことを考え、少しの間二人で細々く経営をしていた。
 そんな時、知人から少しの間だけでも相沢さんを働かせてくれないかと頼まれたことがきっかけで、会社を再度経営してみようと気持ちに変わったったと話してくれた。


「真面目に働く相沢さんを見ていたら、なんだか頑張ってみたくなっちゃってね」

「すみません。そんなことがあったとは知らずに」

「いいのよ、あなたもその頃は、外国に行くことが決まった時期でしょ」

 先生はお茶を一口運ぶと、改まったかのように話した。