「あのーこれ、昨日なんとなく衝動買いしちゃったんですが、もし良かったら貰っていただけませんか」
 私は購入した理由を説明しながら、カサブランカを手渡した。
「あらーそんな正直に話さなくていいのに、相変わらず真面目な子ね」


 笑いながら受け取ると、その笑顔は微笑みに変わりカサブランカを見つめている。
 その気品あふれる優雅さに魅了されているのだろう、手の中で花自体もすましているようだ。
「ありがとう。飾らせてもらうわ」


 暖かい表情でお礼を言う先生だったが、私の手に持つ植物に気付くと、不思議がり問いかけてきた。
「その植物はどうしたの? 何だか面白いうつわに入っているけど」
 私は間違えて持ってきてしまった植物を持ち上げ、ここまでの経緯を説明していた。


 彼女に合わなければ目に止めることもしなかっただろう、カサブランカに比べると雑草にしか見えない植物。
 偶然とはいえ出会ってしまったことに、現在は捨てることも出来ずにいた。
「それは、きっと運命と言うか、そう言う星の巡り合わせね」


 先生はそう語ると、私の拾った植物を窓際に置き言葉をかけていた。
「少しの間ここから外でも眺めて居なさい。今日なんかは日も当たり、ポカポカして気持ちいいでしょ」
 そんな優しい言葉をかけてあげられる、先生の感性に嬉しくなっていた。


 私達は久しぶりの再開に喜び、談笑を楽しんでいた。
 本当は現在の悩み事を聞いてほしかったが、そのことは心に閉まっていた。

 いきなり恋人が、戦争が終わったばかりの国に行くなんて話したら、この場の雰囲気を壊しちゃう。そんなことが常に頭の中にあった。


 自分でも時折笑顔が消えていることに、気付いてしまうほどだった。