駅前の遊園地を背に進むと、不思議とそこは静かな住宅街になる。
 大きな家が立ち並ぶ、ここはいわゆる高級住宅街と呼ばれる場所だ。
 
 何でも昔、山林だった場所に都市計画として町が出来ると、いつの間にか土地の値段が跳ね上がったらしい。

 うらやましいかぎりだ。

 私は皮肉を込めて、元は竹藪だった場所と呼んでいる。
 そんなお金持ちの住む場所に、待ち合わせの会社がある。
 緩やかな坂を登る途中、最初に目に付いたのが、子供の頃に遊んだ記憶がある空き地だった。


 売り地と書かれた木の看板は、生え伸びた草で隠れ、ビニール袋や空き缶のゴミが散乱していた。
 目尻を下げながら会社に目を移すと、久しぶりに訪れたその場所は、植物のツタに覆われ、以前とは違うたたずまいをしていた。


 数段の石の階段を登り、重厚な木材とガラスの扉を開くと、狭い空間が広く感じるほど殺風景な室内に息を飲んだ。


「なにこれ? 大丈夫?」 

 私はしばらく室内を見渡した後、小さく声をかけた。
「こんにちはー霞でーす。先生いますかー」 


 もう一度声をかけるのを遠慮してしまうほど、人の気配がしない。
 職場が変わったのかしら? 
 そんなことを思っていると、奥の部屋から一人の少女が物静かに現れた。


 色濃い赤い口紅をさし、紺色の事務服を着てはいる。
 外見からは、まだ高校生ぐらいの子供のように見える。
 やだ、怖い。また子供だ。

 彼女をは昨日会った上品な子に対し、どことなく冷めた印象を与えた。