「この百合、お母さんにくれるんじゃないの」
 母はカサブランカを私に手渡すと、残念な表情も浮かべること無くそんな言葉をかけてきた。
「この花はねー最近日本に入ってきたカサブランカって言う名前で特別なの。普通の百合とは違うんだから」


 私は昨晩少女から聞いた知識を、あたかも知っているかのように話した。
 そう言えば彼女。ちゃんと帰れたかしら? あんな雑草みたいな植物を気にしていたけど、あの植物に何があるのかしら? 
 奇妙とも取れる彼女の行動を思い出し、疑問に考えていた。


「ふーん、そうなの。はい、それとカバン」
 花に興味のない返事が返えってくると、手荷物を渡してくれる。

「遅れないように、気を付けていくのよ」
「わかったわ、ありがとう」

 それらを受け取ると、私も流されるかのように足早に向かっていた。

 駅に向かう間、母から手渡されたのは、カサブランカだけで無いことに気が付いた。
 昨晩拾った植物も、スーパーのビニール袋に入れられ、手渡されていたのだった。
 やだ、お母さん間違えて手渡したのね。せかせるようだから気がつかなかった。


 ビニール越しでは有るが、人とすれ違う度、そのみすぼらしい植物を持っていることに、恥ずかしさを感じてまう。
 人目を気にし、カサブランカで隠すように抱え込んでいた。

 会社の最寄り駅に着くと、隣接された場所に遊園地があるため、平日ではあるが、大勢の人で賑わっていた。
 この遊園地は大正時代からある温泉娯楽施設が発展したもので、歴史ある場所だ。
 学生時代のデートは、この遊園地に出かけるのが定番だった。

「相変わらず賑やかねー」