実家に戻ると、ずぶぬれになり、片手にカサブランカとバッグ、もう片方で、むき出しになった植物を持つ私を見て母は呆れていた。
「雨が降っていたのに傘も持たないで、それになーにその植物、拾って来たの? みっともない」
 母はそう文句を言いながらも、手荷物を受け取ってくれた。


「お母さん、この植物植えたいの、空いている植木鉢なーい?」
「ちょっと、家の中に泥を持ち込まないでよ、今入れる物とタオルを持ってくるから」
 母はタオルと植物を入れる容器を準備してくれたが、手渡された物は瀬戸物の鉢では無く、円筒状のブリキで出来たものだった。


「ちょっとこれ、果物が入っていた空缶じゃない」
「今それしかないのよ、早く雨をタオルで拭きなさい。風邪ひくわよ。それと、土は家の横のでも入れて、外で手に付いた土はらってから来なさいよ」


 不安定で色気のないあき缶に、植物と優しくほぐした土を入れると、私は何となくほっとした気持ちになっていた。
 セピア色の風景が、徐々に色づきだしたようにも感じる。
「良かったじゃない感謝しなさい。私に助けられるなんて十年早い……だから……」


 気分良く植物に冗談を語っている私だったが、突然、頭の中では奇妙な映像がながれ、顔を曇らせていた。
 それは、私が誰かと並び、手作りのお墓に手を合わせているようだった。
 何でこんなこと考えたんだろう。

 今の、子供の頃の記憶かしら? 動物のお墓。いや違う。
 金魚や小鳥を飼ったことのない私だったので、その行為を何故しているのか、推測することが出来ないでいた。
 気が滅入りながら家にあがると、玄関を閉める音で気付いたのか、母は私の顔を見ることも無く、要件だけを告げていた。