突き刺すような大きな風の音に、目をつむり、肩をすくめた。
 文句を言い続けていることに、空が怒っているとも考えた。
 襲い掛かるような鋭い音は、耳元で鳴り響いているが、想像していた強風は肌に感じることは無かった。
 
 なーに? 今の音。風……だよね。
 不自然さと恐怖を感じ、周りや後ろを振り返ってみたが、木々は揺れることなく物静かな状態だ。
 気のせいかしら?


 足早にその場を離れようと歩き出した私だったが、数歩歩いたところで、再び立ち止まっていた。 
 あれ、雨止んでいるじゃない
 何気なく目にしたカサブランカも、日差しを浴びているかのように生き生きしているように思える。

 一体何なの?

 立ち止まったまま見つめていると、先ほどと同じ音が遠くの方で聞こえ、周りを明るくしている。
 私は誘われるかのように夜空を見上げていた。
 上空の方で風が勢いよく流れているのか、雲を押し流しているようだ。


「うわー、大きな月」
 驚きのあまり漏れた言葉は、現実とは思えないほど大きく、今にも落ちてきそうな月の存在だった。
 初めて見るその奇妙な姿に、私はこの世が終わるのではないかと思わせるほどだった。


 月は慌てるように雲で隠れたが、陰で小さな光がチカチカっと輝、私に意識させた。
 星?
 先ほどの月とは違い、小さく輝く星。


 そんな星を眺めていると、過去にも同じように、見つめていた記憶を思い出していた。
 星を眺めるのも久しぶりだった。
 仕事に日々追われ、夜空も見上げる余裕もなかったのかもしれない。


 子供の頃なんか、夕焼け空に一番星が顔を出すのを、待っていたほどなのに。
 私はその星を見つめ、無意識に有る言葉を引き出されていた。


「クサ……サン……タンカ」


 あれ? なんだろう、この言葉。
 何の意味かなど、思い出すことは出来なかったが、星はその言葉を聞くと、安心するように後から顔を出す星に紛れ、存在がわからなくなっていた。


 気付くと、先ほどの強風は、空に広がる雲を押し流し、星が輝く星空に変えていた。
 見惚れる私は冷静さを取り戻すと、先ほど驚かされたことに、仕返しをしなければいられなくなっていた。
「おっ、遅いわよ、止むならもっと早くしなさいよ」


 そんな言葉をかけながらも、心の中では少し晴れやかな気分だった。
 それは思いが通じたかのように、雨が止んだことだろうか?
 それとも、一番星のように輝く星を見つめ、昔を思い出したからだろうか?


 私はその後、涙を流すことも忘れ鼻歌交じりに家路を歩いていた。