叩きつけるかのように割れた鉢、意図的に投げ捨てられたようにも思われる。
 複雑な気持ちになりながらも、言葉を考えながら合わせるかのように話していた。
「誰かが捨てたのかしら……ね」


 彼女はその場でしゃがむと、割れた植木鉢を手の平に重ねながら片付けている。
「この子だって、幸せになりたいのに」
 悲しむような言葉と同時に、ほうり出された植物を救い上げていた。


 その植物は、葉がしおれかけ、根は雨のせいか土が溶け露出している。
 捨てられてから時間はたっていないのだろうか? 茎は若々しく緑色をしていた。

 雨で濡れた植物を手に乗せると、顔の高さまで持ち上げ見つめていた。


 そんな彼女の手は泥で汚れ、白い制服の袖も汚している。
 彼女は始めてこちらに顔を向けると、私の手に持つ派手な花に気付き話し始めた。
「綺麗な花、ユリですね。それも大きな。最近日本に入ってきたカサブランカですか?」


 その言葉に、何故か罪悪感のような気持ちになっていた。
 花に興味のない私が、気晴らしのために購入したことを見透かされているように感じたからだろうか? 
 私は返す言葉が浮かばず、花を隠すように抱き抱えていた。


 彼女はそれを見つめると、寂しそうな表情のまま会釈をし、その場から去って行った。

 彼女の後ろ姿を見送りながら、少し不気味に感じていた。
 何だったんだろう? 何であんな雑草みたいな植物を気にしていたんだろう? 
 雨音だけが聞こえる中、気がつくと周りも真っ暗になっている。


 雨の寒さと不可解な感覚に、私は自宅に逃げ込みたい気持ちだった。
 急いでその場を立ち去ろうと歩き出したが、数歩歩くと私の足取りは重いものに変わっていた。
 それは草むらの奥にもう一つ同じ植物が、投げ出されていることに気付いてしまったからだ。


 他にも有ったのを、彼女は気が付かなかったのだろう。
 私はそんなことを考えながらも、その場を立ち去ろうとしたが、何故だかこのまま見て見ぬ不利が出来なくなっていた。
 先ほどの彼女の言葉が気になり、ためらってしまう。