店を飛び出すと、薄手のコートを羽織り襟を立てる。
 帰り道の町並みを、にらむように見つめていた。
 すれ違う人々の表情は、私だけを取り残すように幸せに見せ、心を重くさせる。


 何もかも上手く行かない。仕事もプライベートも。
 一層のこと、このままどん底まで落ちてやる。
 そんな投げやりな気持ちにもなるほど、私の気持ちは落ち込んでいた。


 一瞬我に返り心を切り替えようと試みたが、何を考えたらいいのかもわからない。
 駄目だ、前向きに考えることも出来ない。
 もう最悪、最悪だ。


 夕日の出ない曇り空は、夜も近づき不安な光景だけを作り上げていた。
 つまらない町。つまらない時代。そんなことばかり考え街並みを見つめていた。
 電車に乗ることも忘れしばらく歩るくと、私の気持ちを少しまぎらせる、提灯のような優しい灯りが、視界に飛び込んできた。


 最近出来たのだろうか、小さな花屋から放っている。
 ねずみ色の住宅の間に、一軒だけオレンジ色の外壁。
 そのただ住まいは、見るからに新しい。


 ふーん良いじゃない。そうだ、ここで気晴らしに値段の高い花でも購入してみるか。
 ムシャクシャした気分を誤魔化すため、私は店の中に入って行った。
「いらっしゃいませ」


 普段なら私の気を引いていただろう、若い男性店員の声がする。
 二十代前半だろうか? 何故か花屋で働く男性はおしゃれに見えてしまう。
 衣服のサイズ感が良いのだろうか? スタイリッシュにも見え、身だしなみも優しく女性好みに清潔感をあたえる。


 しかし今はそれにも反応することなく、不貞腐れた態度で店内を見渡していた。
 へーっ、意外におしゃれじゃない。
 そこは色彩豊かな花で埋め尽くされていた。